超軽量スイス館 大阪・関西万博の「成功」に向け完成間近
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4月13日に開幕する大阪・関西万博に向け、スイス館が完成間近だ。日本国内では万博に冷めた視線も注がれるなか、スイスは環境負荷を抑えたパビリオンで存在感をアピール。「万博の成功」を目指す。
チューリヒに住むIT技師、ジェームズ・ヴォルフェンベルガーさん(63)は4月、日本に数週間滞在する計画を立てている。主目的は桜の観賞と知人の訪問だが、大阪・関西万博の会場にも足を運ぶつもりだ。副業で映像アートも手掛けるヴォルフェンベルガーさんは「私にとっては展示や建物を見た時の『感情』が大事。テレビやネットにはない体験ができる万博が楽しみだ」と期待を寄せる。

スイス館はそんなヴォルフェンベルガーさんの期待に沿う展示の1つになりそうだ。スイス館を設計したバーゼル拠点の建築家、マニュエル・ヘルツ氏によると、同館の特徴は「最小限に抑えたエコロジカル・フットプリント」。つまり建物の建設から廃棄に至るまでの過程で自然環境に与える負荷が非常に小さいパビリオンになっている。
映像美術のベルプラット・パートナー、建設会社ニュスリと共同で設計。ヘルツ氏は設計にあたり、万博が6カ月しか開催されず、閉幕後は全ての建物を撤去しなければならない点を最重視したという。「持続可能性は建築において最も重要なテーマの1つになっている」。スイス館には軽量資材を使った工法とモジュール構造を採用。万博終了後はいったん解体するが、日本の別の場所に移してそのまま再利用される予定だ。
スイス館のメイン展示室は地上に4個、建物部分に1個、合計5つの球体でできている。球体を形作るのは2層の薄膜で、内側には買い物袋などにも使われるポリ塩化ビニル(PVC)、外側には軽さが特長の熱可塑性フッ素樹脂(ETFE)を使った。
これを膨らませて鉄骨で支える「ニューマチック構造」を採用し、コンクリート造りなどに比べ圧倒的に軽い建物を作り上げた。球体部分の重量は合計400㎏以下と、大人6人分にも満たない。大雑把に言って、建築物は軽ければ軽いほど排出量が少なくなる。日本・スイスのエンジニアの力を結集し、軽さを追求しながらも台風や地震に耐える構造に設計した。
球体は1つずつ運び、簡単に組み立て・解体できる。このため輸送段階の排出量を減らし、展示後の再利用もしやすい。現在も日本の業者数社と、万博終了後の建物の売却を交渉中だという。技術パートナーを結ぶ京都工芸繊維大学では昨秋、スイス館と同じ素材を使っての再利用に関するワークショップ外部リンクを開いた。成果は万博でも披露する予定だ。
シャボン玉のようなユニークな構造は、1970年大阪万博のパビリオンに発想を得た。「当時は大胆でユーモアにあふれ、実験的なパビリオンが花火のように立ち並んだ」。当時のように来場者を驚かせるものにしたかったという。
薄れる万博への関心
スイス館の建設は予定通り3月末に完了しそうだ。だがここまで順調な海外パビリオンばかりではない。読売新聞外部リンクによると、スイスのように参加国が自前で設計・建設する「タイプA」の海外パビリオンは当初60カ国が建設予定だったが、建築費高騰を受けて万博協会が建設するタイプに変更したり、出展自体を断念したりする国が続出。「万博の華」と呼ばれるタイプAは47館に減った。
日本国内でも万博への関心は薄い。三菱総合研究所が2021年4月から半年ごとに実施している意識調査外部リンクによると、直近24年10月時点で大阪・関西万博に「関心がある」と答えた人は24%。初回調査の29.5%から伸びるどころか減っている。「会場に足を運ぶ」人も22年4月の29.7%から24.0%に低下した。
調査を担当した三菱総合研究所の奥野翔子氏は、「ネガティブなニュースで万博を知る人が増えるに伴い、無関心層・反対層の割合が広がっている」と分析する。
ネガティブな万博報道の目立つテレビを視聴することの多い60歳代は、万博への関心がとりわけ低い。「大成功と認識された1970年の大阪万博を知る人ほど、今回は目玉となる展示や具体的な内容が見えづらく、成功を期待しづらくなっている」(奥野氏)。反対に、過去の万博を知らない若い世代は純粋に「コンテンツ」「デザイン」「海外との交流」という万博の特徴的要素に関心を抱いているという。

万博はオワコン?
あらゆる知識や人脈がオンラインで得られるこの時代に、万博というイベント形態そのものが「時代遅れ」「オワコン」との批判も上がる。大阪出身の作家・筒井康隆氏は2023年、Yahoo!ニュース外部リンクに「今また万博なんていうのは時代遅れ。日本には金がないし、来る国にもない」と語っている。
全体的な関心の薄さを反映するかのように、前売り券の販売は伸び悩む。2025年日本国際博覧会協会外部リンクによると、今月19日時点で販売された前売り券は787万枚余りと、目標の1400万枚の半分を少し上回る程度にとどまっている。
奈良県に住む石原久美さん(52)はチケットを買おうとホームページにアクセスしたが、購入段階で日付や人数まで決めなければいけないことに戸惑いを覚え、購入を見送った(編注:日程は指定せずに購入することも可能)。「工事の遅れや目玉展示がないなど、ネガティブな印象がある」。開幕後に口コミやニュースを見てから改めて来場を検討するつもりだ。
石原さんは万博というイベント自体に関心がないわけではない。小学生のときに親に連れられて訪れた神戸ポートピア万博は、コーヒーカップの形が話題を呼んだUCC館や、ダチョウの卵の大きさに驚いたことが今でも記憶に刻まれている。「いろいろな国のことを現地の人がアピールしてくれ、立体的な展示に触れられるのは大きなチャンス」。それでも大阪・関西万博はチケット購入のハードルを乗り越えるほどの魅力を現時点で感じられないという。
「解決策を生み出す国」
開催国に比して、スイスは楽観ムードが広がる。2005年の愛知万博以来、多くの国際万博でスイス館を統括してきたスイス外務省のマニュエル・サルクリ氏は、「経験上、万博の最後の 2カ月が最も訪問者が多い」と話す。同氏は大阪・関西万博の参加国160カ国・地域・国際機関を代表する運営委員会の議長も務めるスイスの「ミスター万博」だ。スイスは過去に開催されたほぼすべての国際博覧会に出展してきた。
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サルクリ氏は、万博が成功したかどうかは来場者数ではなく、来場者の満足度や、「持続可能な開発」への意識が開催国や来場者の間で高まるかどうかにある、とみる。「のちの社会に広く影響を及ぼす技術やソリューション(解決策)を、万博の場でどれだけ示せるかが成否を左右する」
予算制約が厳しいのはスイスも同じ。2020年ドバイ万博や大阪・関西万博の予算は、過去の万博より25%減らさなければならなかった。サルクリ氏は「スイスもタイプBへの移行を検討する時期があったが、建設費固定で発注済みだったため難を逃れた」と打ち明ける。「それでもこの機会を活用し、日本のステークホルダーと中長期的な関係を築くことがスイスにとって極めて重要だ」
建築家のヘルツ氏はスイス館に、スイスの大きな特徴「イノベーション」と「好奇心」、そして「自然」を表現することにこだわった。「訪れた人に願わくばインスピレーションを与え、微笑んでもらい、そして喜びを感じてもらいたい」
☟スイス外務省によるスイス館のPR動画
編集:Reto Gysi von Wartburg、校正:宇田薫
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